「編集者こそ、出版という業態・ビジネスモデル・プラットフォームを徹底的に考え抜き、
再構築していくべきだ」
といったことを記しました。
その気持ちは、数年前からずっと一貫しているのですが、
「全ての編集者がビジネスを考えるべき」と思っているわけではありません。
そんなことを考えるとき、
いつも頭に浮かぶ編集者がいます。
同期入社の漫画編集者です。
入社以来ずっと大人向け漫画誌に所属し、いくつもの名作を担当している男です。
彼とは年に一回飲みに行くことがあるかないか程度の仲なのですが、
僕は、彼の担当する漫画や、風の噂を通して彼の仕事ぶりには、いつも注目しています。
彼は漫画編集者としては優れているけれど、いわゆる「器用なタイプ」ではありません。
無骨に、いい作品作りだけを考えているようなところがあります。
彼と話すとき、僕はビジネスなんてことは一切出しません。
そんな話をしたら、顔をしかめられることも分かっているからです。
そして、そもそも、彼がそんなことを考える必要はないと思っているからです。
彼のような編集者には、そのままでいてほしいと思っているのです。
むしろ、
彼のような編集者が、そのままのスタンスで、いい仕事をしていられるような環境を作るためにも、
僕はビジネスのことを考え続けようと思っています。
僕より、ビジネスのことを考えられる人はいくらでもいます。
僕よりも優れた編集者も山ほどいます。
それは、自分でも分かってます。
でも、ビジネスのことを考えることも、
ひたすら面白いものを作ることも、
両方できる人は、意外と少ない。
両方できて、なおかつ、どっちもすごく楽しめる人は、もっと少ない。
だから、僕はそこを極めようと思ってます。
それによって、
かつて、学生時代の僕が憧れていたような
「全身編集者」的な人が、スタンスを変える必要がなく、そして、信念を曲げることもなく
いつまでも素晴らしいものを生み出し続けられる土壌を作っていけたらと
考えているのです。
それこそが、子どもの頃から僕に
楽しみと感動と驚きと笑いと哀しみと知識とアホらしさと勇気と残酷さと温かさと
ありとあらゆる素晴らしいものを与え続けてきてくれた「出版」という存在への恩返しだと思っています。
なんて、
ちょっと、こっぱずかしいことを書いたので、
照れ隠しも兼ねて 最後に苦言を。
勘違いなきように言っておきますが、
これからの時代、彼のようなスタンスが許されるのは、限られたごく一部の編集者だけですよ。
同じ会社の同じメンツと、会社の金で飲みにいって、愚痴とウワサ話ばっかりして、何一つ新しいものを生み出さないタイプの編集者に限って口にする
「編集者たるもの、ビジネスなんて考えるべきではない」なんてのは、
もう一切通用しない時代は着々と近づいていますよ。
この「近づいている」というのは、僕なりの気遣いで言ってみましたが、
本当はもう追いつき、追い越されてるのかもしれませんが。
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