出版の将来像をテーマにした記事は、下記が最新となります。
 ●「10年後の出版業界」を見通すための羅針盤
(2016年)


3本立ての記事となっています。なるべく1本目からお読みください。
「次世代の出版業界」予想図 <その1>


■電子書籍については、どう考えてますか?

「これからの出版業界」の鍵を握るように言われていますが、少なくとも私個人としては、電子書籍にはあまり大きな可能性は感じていません。
少なくとも日本においては、電子書籍という場は出版社の存在感を示しにくいのではないかと思うんですよ。

『人は異なるメディアに向かい合う時、その心理状態も変えるので、中身よりもメディア自体が人々を変える可能性を持っている』というメディア研究家の有名な言葉があります。

例えば、紙の本に向かってる時は、紙の本に適した頭・心の状態になってるんですよね。
一方で、iPhoneなどのデバイスに向かってるときは、また別の心理状態になっている。
つまり、同じコンテンツに接しているときでも脳みその使ってる部分が全然違う。

だから、電子書籍になったとたん、そのコンテンツの最大のライバルは『ONE PIECE』や村上春樹ではなく、iPhoneなどのデバイスに入っている他のコンテンツになるんですね。
Facebookやtwitterなどのソーシャルメディアだったり、グリーやモバゲーなどのゲームだったり。

そのデバイスに接しているときの心理状態にマッチした電子書籍コンテンツを作るというのは相当難しいことだと思いますよ。

電子書籍の今後を推測する上で、よく例に出されるのが、音楽のダウンロードですが、私はちょっと違うと思います。

音楽はレコード・カセットテープ・CD・MDと、この何十年かでもパッケージが次々と変化してきてるし、ユーザー自身がパッケージの移動を普通にやってきた。
そこに、より便利なダウンロードが登場したわけです。
これまで体験してきたことが、より楽ちんになった。それは当然普及しますよ。

でも、本の場合、パッケージの変化なんて歴史上でも一度もありませんでした。

だから、あえて、たとえるなら、映画のビデオ販売が始まった時期のほうが適しているんじゃないかと思います。
「映画館で観る」以外に選択肢がなかったところから、「家庭で好きなときにみる」という全く別の選択肢が生まれたスイッチの瞬間です。
今、出版界で起こっていることは、むしろこっちに近い。


だから、「音楽ダウンロードサービスが成功した理由」よりも「映画のビデオ販売が成功した理由」を研究したほうがいいと思います。

映画は、上映期間や上映時間など時間の制約があり、わざわざ劇場まで出かけて、それなりのお金を払って、と手間のかかる体験です。

そういうものを気軽に家でいつでも楽しめるようになるっていう、圧倒的な「体験の格差」があったからこそ、パッケージの変化が成功した。
新しい体験って、それまでの体験と、よほど大きな格差があってこそ、受け入れられるんですよ。
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では、電子書籍には、どんな「体験の格差」があるでしょう。
せいぜい「持ち運びが楽になる」「保管スペースがいらなくなる」程度ですよね。

書店が身近にないアメリカならば「すぐに手に入れられる」が大きなメリットになりますが、これだけ書店が身近にある日本において、あまり大きな「体験の格差」じゃないんですよ。

しかも、デバイスには電子書籍なんかより楽しめるコンテンツがいっぱいある。

こんな状況において、電子書籍がどこまで浸透していくかは正直疑問ですね。

もちろん、市場規模が拡大はしていくと思います。
けれども、紙の出版物での利益の減少を補うほどにはならないでしょうね。

だから、「これからは電子書籍の時代だ」と、どんどんコンテンツをデジタル化していけば出版業界は大丈夫、では全然ないだろうなと。


つづきは、<その3>

出典:第七回・出版甲子園にて来場者に配布された『出版業界・虎の巻』

※あくまで私の個人的な意見であり、所属している会社の見解ではございません。