「次世代の出版業界」予想図 <その2>の続きです
電子書籍においては、出版社はどう戦うべきなのでしょうか。
とりあえずここ5年間くらいは、紙の本をフックに使うのがいいのかなと思っています。
先の映画の例が示すように、あえて「体験の格差」を生み出していくことが、紙の本にとっても、電子書籍にとってもプラスになるんじゃないかと。
例えば、5万部売れる作家さんの本を、「紙の本は1万部限定でしか刷りませんよ」と決める。
さらに、普通なら1000円くらいで売るところを、豪華版にして3000円とかにするんです。
で、その数か月後に電子書籍を800円とか安い値段で出す。「体験の格差」を意図的に作るんですよ。
一部の人だけが豪華な本を人より早く手に入れられて満足、そして、少し待たされるけど、その「高価なもの」を安く手に入れられることで満足、紙・電子どちらの読者にもプラスになるんです。
最近、紙の本と電子書籍を同時発売とかやってますよね。
あれって話題作りとしてはいいし、試みとしても悪くないと思うんですが、長い目で見たら逆効果だと思うんです。
読者に出版物を通じて、どんな体験をしてもらいたいのか、本当に考えているのかなあと。
たとえば、映画公開とDVD発売が同時だったら、その一瞬は嬉しいかもしれないけど、「おしゃれしてわざわざ映画館に出掛けて観る」という体験の魅力は半減させられちゃいますよね。
「ユーザーにとって便利」に寄り添うことが、必ずしもユーザーにとっていいこととは限らないんですよね。
これからの出版業界は、どうなると思いますか?
出版業界の五年後十年後は大きく分けて2パターン考えられると思います。
まず一つは「このまま縮小を続け、ある限られた層を対象とした一産業になる」という流れです。
この先、紙の出版物の数は確実に減っていくでしょうし、とりわけ、雑誌の減少は著しいと思います。
けれども、紙の本がなくなることは当面はありえませんから、ある段階で減少は止まり、そこからは横ばいが続くでしょう。
その段階になったとき、出版業界は「メディア」ではなく、あくまで「一部の読書好き層に向け、良質なコンテンツを提供する産業」になってる可能性が高いと思うのです。
もう一つの在り方は、これまで培ってきたものをフックに、新たなビジネスで大きな利益を上げていく流れです。
社内に眠っている財産を検証すればするほど、まだまだ出版社には大きな可能性が残されていると感じます。
正直、残された時間はかなり少ないと思いますが、自分としてはやはりその可能性に賭けたいと思っています。
ただ、後者のような流れに対応して成功できる出版社は、ごく限られた会社だけだと思います。
そして、そうやって進化したあとの姿は、もはや「出版社」ではないかもしれません。
そう考えると、「出版業界」の十年後は、やはり前者である可能性が高いのかもしれませんね。
出典:「第七回・出版甲子園」にて来場者に配布された『出版業界・虎の巻』
※あくまで私の個人的な意見であり、所属している会社の見解ではございません。


