今年も明治大で講義をしてきました。
テーマは「出版業界の救世主!? 電子書籍のこれから」。

学生さんには、ちょっと抽象度が高い内容だったかなあ、という反省はあるのですが、、

僕の2009年あたりからの考察をベースに、
サバティカル休暇中に海外で見聞きしたこと、考えたことを盛り込み、
仕事復帰後、痛切に感じた問題意識を反映し、
現時点での「ウェブ・デジタルに関する考察」の総まとめ
と言える内容になりました。

講義内容を知りたいというリクエストの声もいただいたので、
ここに、キーワードだけでも紹介させてもらうことにしました。

箇条書き的になってますが、よろしければご覧ください。

明治大・講義2015-7・メディア・電子書籍


■電子書籍は救世主になりえない。それでも、出版社は電子書籍に力を入れるべき理由

●電子書籍の肝は、
「情報にお金を出す意志のある人」が集う、世界最大級の通販サイトにデータを置いておけること。

●しかし、常に最新の「流れている情報」を得られるデバイスで、わざわざ、電子書籍のような「固定された情報」を得たい人がどれほどいるだろうか。

<この考察については、以前に書いたブログ 希望は、乏しいです。:「電子書籍のこれから」を、まとめてみましたもご参照ください>

●音楽配信の隆盛から、電子書籍のこれからを見通そうとするのは安直過ぎる。
パッケージ&体験スタイルの変化を 繰り返してきた音楽と、同等に考えることがそもそもの間違い。

<この考察については、以前に書いたブログ 「次世代の出版業界」予想図 <その3>もご参照ください>


●電子書籍に関する考察まとめ

・「固定された情報」を得る場所としては、これからも紙が主流。 
(消費スタイルが、いわゆる出版物とは異なる漫画は除く)

・とはいっても、紙の本の市場規模は減っていく。

・電子書籍の市場規模は伸びていく。
しかし、紙の本の市場減少を補うことにはならない。

・しかも、その電子書籍市場において、
出版社は、紙の本の市場ほど優位に戦えない。

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●さて、出版社は今後どうしたらいいか。

選択肢のひとつは「紙の本の市場で戦う」。
右肩下がりは続くだろうが、ある程度で下げ止まる。
紙のメディアに親しみがある高齢者層が元気な20年間くらいは、なんとか食いつないでいける。

(蛇足ですが、2025年頃の出版社が今よりも発展する方策の一つは、
「高齢者対象のサービス業」に変化していくこと、だと思います)

●それでも出版社は電子書籍に力を入れるべき理由

・メディアのウェブ・デジタルへのシフトは止められない。
何かしらの対応は必須。

・出版社がウェブ・デジタル分野において、
イニシアティブを取れる可能性が残された、数少ないフィールドの一つが、電子書籍。

(スマホやタブレットなどは、出版社の得意分野を活かしやすいデバイス。
そのデバイスが起こす変革が、いきつくところまで行った。
次に、ウェブ・デジタル分野において変革が起きる時期は、新たなデバイスが普及するタイミング。
そのデバイスにおいて、もはや、出版社が成せることは限られている)

●電子書籍においては、出版社が イニシアティブを取りうる理由

・Amazonという「出版社が既に、ある程度の存在感を示せている」
+「情報にお金を払う意志のある人たちが集まる」場所に
データを置いておける。

・出版社は「固定された情報」作りには比較的、長けている。

→問題は、収益をどう上げるか

明治大



■電子書籍において火急な課題「収益をどう上げるのか」

●これまでの出版ビジネスは、「価格が一定。客数を増やす」ことだけを基本でやってきた。
「客数は下げても、客単価を上げる」という選択肢が除外されてしまっている。

これまで出版


●100万円の収益を得る方法にも バリエーションがある。
「100万人から1円ずつ集める」も「1万円を出してくれる人を、100人集める」も。

●ウェブ・デジタルの荒波の中で、いつしかメディアは「100万人から1円ずつ」が正解みたいになってるけど、本当にそうか?
これまでの慣習で、ついつい「母数を増やすこと」を盲目的に選んでしまってないか?

その方向性は、将来性のない消耗戦。
かつ、既存メディアが長年積み重ねて来た大きな財産である「信頼性」を削り取っていく危険性も。

●情報やコンテンツという「商品」には、「リピーターがいない」という大きな特性がある。
リピーターがいる商品と違い、客数を上げるには限界がある。

●「デジタルやウェブによってもたらされたメディアの変化」は、
「100万人から1円ずつ集める」だけでなく、
「1万円を出してくれる人を、100人集める」ことも可能にしている。

Facebookなどの登場により、イベント集客、コミュニティ維持などが、容易かつ低コストになった。
今までは流通コスト、プロモーションコストが高かったので、無理だったことも可能に。

上のベクトルも


●雑誌はかつて「帰属意識」を疑似体験するものだった。
毎週・毎月、500〜1000円出してくれる「コミュニティ作り」が重要だった。

●出版のビジネスモデル的にも、 編集者の気質的にも、 「100万人から1円ずつ」 より、 「1万円出してくれる人を100人」 集めるほうが向いている。

→「客単価を上げる」ほうが向いている。


●これまでの出版は、少なくとも、数千部は出せないと制作・流通コストが割に合わなかった。
しかし、電子書籍はそうではない。
「1万円出してくれる人を100人」を探すツールとしては、電子書籍は向いている。

●電子書籍は、単独で利益を出そうとすると厳しいが、
既存メディアが「濃いお客さん」を見つけるための「マーケティング・ツール」としては非常に優れている。

●電子書籍を活用する指針の一つは、
「読後のアクションで利益を上げる 」ということ。

紙の本と違い、ウェブに直結させられるので、
出版コンテンツに留まらない展開が可能。
 
デジタルデバイスには「流れる情報」が満ちている。
→逆に、利用して、電子書籍(固定された情報)から、
「流れる情報」につなげていく。


・・・と、
こんなことを明治大の学生さんたち相手に話してきました。

(事前に準備していた書類をベースに記したので、
当日の講義では時間の関係で飛ばしたことも含めています)

僕は編集者なので、大事なのは、
こうやって分析したことを踏まえて、どう具体的なものを作り出していくか、
なんですよね。

そろそろ、少しずつ、エンジンをかけていこうかなと思ってたりしています。


【過去の「電子書籍に関する考察記事」は、こちらにまとまっています】

■反響が大きかった記事まとめ


【これまでの大学講義に関連した記事】

■東北大学で講演しました。「グローバルって案外チョロいかも」

■明治大で講義をしてみた。僕らの時代との違い

■本日、明治大で講義をします。僕の「世界マンガ・ビジネス戦略案」


※あくまで私の個人的な意見であり、所属している会社の見解ではございません。