ここのところ、「出版社 10年後」といったキーワードで検索をかけて、このブログに来る人が増えてきました。

出版業界の先行きが気になる人、不安な人が以前よりも更に増えてきているのでしょうか。

Googleなどの検索からだと、下記の記事にたどり着いているようです。

「次世代の出版業界」予想図 <その1>
「次世代の出版業界」予想図 <その2>
「次世代の出版業界」予想図 <その3>

2011年に書いたものですが、「その5年後」(つまり今)は、概ね、ここで書かれていた方向に向かっているなと感じます。


とはいえ、さすがに5年前の記事、です。
電子書籍を主題にして「10年後の出版業界」を語った気になれる時期はとっくに過ぎ去りました。

また、私自身が、
サバティカル休暇中に世界各地のメディア状況を体感しながら、
一歩外から日本の出版業界を見て、考え方が大きく変わった部分もあります。

再び出版社に戻って約2年の間に、改めて感じたことも多々あります。


それらを踏まえて、「2016年度版の【10年後の出版業界】像」を、
きちんとまとめたいな、と思い続けているのですが、
その作業は膨大な時間を要しそうで、今はその時間的余裕がありません。


しかし、「10年後の出版業界」を知りたくて検索してまで
このブログを訪問してくださった方々のためにも、
せめて、なにかしら役に立つ情報を提供できたらと思っていました。

そんな時、「10年後の出版業界」を見通す「羅針盤」となる良書に出会いました。
これは是非、紹介したい!と思い、この記事を書き始めた次第です。

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(↑この写真はイメージです。下記で紹介する本とは関係ありません)


その本の紹介に行く前に、
「2016年度版の【10年後の出版業界】像」をまとめることが
なぜそんなにも大変なのか、
理由を記しておきたいと思います。

そのことを説明することもまた、
出版業界が今、置かれている状況を俯瞰で見ることに繋がると思うからです。


■今、「出版業界の10年後」を記すことが大変な理由

「2016年度版の【10年後の出版業界】像」を描こうとすると、
・グローバルなメディア再編を主眼とした「マクロ編」

・草の根的に発生しつつある新たな萌芽に着目した「ミクロ編」
に分けて記事展開しないことには、正確には描くことはできないと考えています。

しかも、その際に、多くの事象と分析をまとめることになりますが、
メディア分野周りの動きだけを記しているだけでは全く足りません。

5年前ごろはギリギリまだ、
「これからの出版業界」を見通すために、
メディア界隈の最新動向と、その周辺領域(ネットや音楽・映画など)だけをチェックしていれば、まあ一応はOKだったように思います。

けれども、
紙向けコンテンツをデジタル化した「電子書籍」や、
キュレーションアプリの下請け化している「ウェブメディア」
について考察して、
「これからの出版業界」を語った気になれる牧歌的な時代は、とっくに終わりました。

(相変わらず、そういう視点から「出版の将来像」を語っている本を見かけますが、ほとんど役に立たないと思います)

世界規模でのメディア再編がどう動いているか=マクロ視点
地方などから生まれつつある、一人出版社や、特色ある書店=ミクロ視点
さらには、
テクノロジーはもちろん、国際情勢の変化など、一見メディアと関係のない分野も鑑みながら、
複眼的に分析していかないと、大切なことは何も見えてこないはずです。

だから、
「2016年度版・10年後の出版」は、簡潔に記すことすら、とても難しいと感じるのです。


■「10年後の 出版業界」を見通す羅針盤となる本

前置きが長くなりました。
上記のような状況を踏まえて、本題に入ります。

そんな複雑な状況下においても、「10年後の出版業界」を見通す「羅針盤」となるオススメの本の紹介です。





原題「The Inevitable」が示す通り、今後30年間の間にわれわれの未来が「不可避的」に向かう先を、12のキーワードから読み解く、という内容です。

テクノロジーの性質そのものを規定する物理的・数学的な法則をベースに、未来の方向を分析しているというところが非常に信頼できます。

出版業界を主テーマについて記された本ではないのですが
(逆に、だからこそ、「出版業界のこの先」を見通すに適しています)、
随所に、本や編集の未来像について触れられている箇所があります。

この著者、ケヴィン・ケリーは、本をとても好きなんだろうな、と感じさせるところも好感が持てます。
(とはいえ、本好きゆえの願望に満ちた未来像、とかではなく、極めて冷静に本の未来像を分析しています)

例として、いくつか抜粋します。

<本をモノとしてではなく、それができるすべてのプロセスだと考えてみよう。
名詞ではなく動詞として考えるのだ。
本は紙や文章のことではなく、「本になっていく」ものだ>
(p.123)

<世界のすべての本が一つの流動的な構築物になり、言葉やアイデアを相互につなぐようになる>
(p.133)

このようにして、出来上がった(永遠に完成することのない)構築物は、
単なる膨大な辞典状態に留まるのではなく、プラットフォームへと昇華していく、と示されています。

<すべての作品が収まったユニバーサル図書館は、単なる検索可能な図書館以上のものになるということだ。
それは文化的な生活のプラットフォームになり、本の知識を再び舞台の中心へと呼び戻す。>
(p.134)

そのたとえとして、著者は「Googleマップ」を挙げています。
Googleマップは、単なる「オンライン地図」ではありません。
そのデータを各々が活用して、新たな文脈を持たせた地図を、独自に作ることができるプラットフォームになっています。

「ユニバーサル図書館」も同様に、誰もが、そのデータを活用して、新たな階層を作り上げることができるようになるのです。


そして、そうした<ネットワーク化された本>自体を、著者は<編集の流れ>と言っています。
「編集」という作業の持つ意味も、自ずと変わっていくのでしょう。

また、
<断片ごとに読まれたり、ページ単位でリミックスされたりすることを前提とした本を書く作家も出てくるだろう。>
(p.132)
というように、作家にとっても、この先を模索する上でヒントになりそうなところが多数あります。

こうやって、本に関わるところを抜粋していくだけでも、書き出したいところは山ほど出てきます。
まだまだ書きたいこと、言いたいことは、たくさんあるのですが、ここらで止めておきます。
私が下手に解説した文章を読むより、是非、本を実際に読んでみてください。


なお、これから10年後(2025年頃)に、上記のような状態に達していることは、さすがにないでしょう。

私がここで言うところの「10年後」というのは、
正確に2025年ごろを指しているのではありません。

「10年後 出版業界」で検索する人たちの大半は、「10年後」を「遠からぬ将来」として使用していると思うので、この記事でも、同様に扱っています。

仮に、正確に2025年ごろの姿を推測したいのだとしても、
2030年代、2040年代、と10~30年後くらい幅を持って考えることが極めて有効だと思っています。

2025年頃に、どこまで進んでいるかは分かりませんが、上記のような方向に流れている過程であることは、それこそ「不可避」だと思います。


■最高にカッコいいものは まだ発明されていない。

『〈インターネット〉の次に来るもの―未来を決める12の法則』は、なかなか分厚い本ですが、
フローイング、リミクシング、アクセシング、などのキーワードごとに一章となっていて、それぞれの章ごとに、短篇のようにまとめられていますから、
終始、強い興味に引っ張られながら読み進めることができました。

私は元々、「未来予測」本が好きなのですが、数多あるそうした本の中でも、とてもポジティブな刺激を与えてくれる一冊です。

この未来像の中で、なんかやってみたいなあ!と思わせてくれるような。

<最高にカッコいいものは まだ発明されていない。
(略)
人間の歴史の中で、これほど始めるのに最高のときはない>
だそうですよ!

明るいニュースがますます少なくなっている出版業界ですが、
本やメディア、エンタメを心から好きな人たちにとっては、この先は、
むしろ、今までなんかよりもっともっと面白いことが広がっていると思います。

希望に満ちた「10年後の出版」を作り始めていきましょう!


【追記】
1.
上記で記した「ミクロ視点」の一例としては、今年(2016年)に書いた以下の記事が参考になると思います。よろしければご覧ください。

「サードウェーブ・パブリッシング」という希望:出版の10年後

2.
『〈インターネット〉の次に来るもの―未来を決める12の法則』の要約は、下記などでご覧になれます。(でも、やっぱり実物を読んだほうがいいと思います)
bookvinegar
ビジネスブックマラソン
honz

3.
<「電子書籍」や「ウェブメディア」について考察して、「出版の将来像」を語っている本は、ほとんど役に立たない>
と書きましたが、もちろん、例外もあります。

『デジタルジャーナリズムは稼げるか』 ジェフ ジャービス (著)
は現在読んでいる途中ですが、オススメできそうです。
「未来像なんてどうでもいいから、直近、ここ3~5年で、手っ取り早く収益化する方法を探りたい!」という人には、こっちのほうがいいかもしれません。