出版業界に関する明るいニュースがなかなかない昨今ですが、
個人的には、最近、考えるたびにワクワクするテーマがあります。
それは、コーヒーに定着した「サードウェーブ(第三の波)」が、
出版の世界にも訪れるのではないか、
という考えです。
そう、
「サードウェーブ・パブリッシング」です。
本の物質としての価値が、これまでとは違ったかたちで受け止められ、その背景にあるストーリーや価値観が重要視されていく、
そして、生み出される場所や、受け取る場所や時間にも価値が生まれてくる、
そんな潮流です。
どこかの誰かが言っていることではなく、
私自身が、神保町の街を歩いていた時に、ふと思いついたことなのですが、
なにか確信めいたものを感じています。

■デジタル化がもたらす出版の大変化の「一傍流」として
かなりの確率で誤解を生みそうなので、先に書いておきます。
この「サードウェーブ・パブリッシング」は、
出版コンテンツのデジタル化の流れと相反する概念では全くありません。
本はやっぱり紙だよね!みたいなことを言いたいのでは全くありません。
この「第三の波」が、これからの出版の主流になり、出版業界が再浮上する、なんて思うほど、私も夢想家ではありません。
「情報伝達手段」「エンタメの消費媒体」としての「紙VSデジタル」論争みたいなものは、もう勝負がついています。
それは不可逆的な流れです。
サードウェーブ・コーヒーが、コーヒー全体の市場規模から言えば、ごく一部であり、
缶コーヒーやコンビニの100円コーヒーの市場のほうがはるかに大きい。
にもかかわらず、確固たる存在感を示している--
そんな状況と同じように、
「サードウェーブ・パブリッシング」は、
デジタル化がもたらす出版の大変化の中で、一傍流として、
けれども、強い光を放ちながら、出現していくのではないかと考えています。
■類推のための「サードウェーブ・コーヒー」解説
「サードウェーブ・パブリッシング」という概念を説明するために、まずは、
サードウェーブ・コーヒーの概要をざっとまとめてみます。
(参考:ジョージアのサイト「コーヒー業界の新潮流!3分でわかるサードウェーブコーヒー」)
●第一の波「ファーストウェーブ」
19世紀後半から、1960年代まで続く、コーヒーの大量生産・大量消費の時代です。
流通の発達により安価になったことでコーヒーがポピュラーな飲み物になりました。
●第2の波「セカンドウェーブ」
1960年代、シアトル系コーヒーチェーンなどの台頭により広がった、深煎り高品質の豆を使ったコーヒーの時代です。
スタバが代表格です。
●第3の波「サードウェーブ」
コーヒーの生産地への配慮や価値などが注目されるようになり、コーヒーがカップに運ばれるまでのトレーサビリティ、豆の素材や淹れ方など、各々の工程にこだわる「スペシャルティコーヒー」が存在感を強めています。
ハンドドリップで一杯ずつ丁寧に淹れるスタイルがトレンドになっています。
2015年に日本へ初上陸した「ブルーボトルコーヒー」が代表格で、焙煎所が併設されていることも特徴的です。
新しいビジネスとカルチャーがひとつになって確立しているという特色もあります。
こうしたコーヒーのムーブメントの流れを参考に、いよいよ、
「サードウェーブ・パブリッシング」の説明に行きたいと思います。
■出版の「第一の波」、「第二の波」
まずは、「サードウェーブ・パブリッシング」の基盤として「出版における第一、第二の波」を定義していきます。
●出版の第一の波「ファーストウェーブ」:
大量生産・大量消費の時代です。
全国津々浦々に書店ができて、雑誌が全盛となり、出版がマスメディアとして機能していました。
●出版の第二の波「セカンドウェーブ」:
現在は、この渦中になります。
2000年頃からのネット書店の台頭やデジタル化の流れで、出版業界が大きく揺るがされている状況です。
まず、アマゾンに代表される、ネット書店の台頭により、
本は「いつでも、どこでも手に入るもの」へと変わりました。
少部数の本を探し求めて書店を梯子する、といったことが不要になり、絶版本でも簡単に手に入る時代になりました。
また、電子書籍やオンデマンド・パブリッシングの発達により、「いつでも、どこでも手に入る」要素がより一層強化されました。
同時に、セルフパブリッシングが急激に増え、低コスト化、低価格化も進んでいます。
結果、ロークオリティ化という弊害も一部で起こっています。
第二の波に関しては、コーヒーのそれとは様相が異なりますが、
アメリカ発の企業が大きな存在感を示している点では、通ずるところがあります。
そして、いよいよ、第三の波、「サードウェーブ・パブリッシング」です。
■出版における第三の波「サードウェーブ・パブリッシング」
これから生まれてくるであろう
「サードウェーブ・パブリッシング」は、3つの要素を軸に説明していきます。
「物質」「物語・価値観」「場所・時間」の3つです。

●「物質」としての本の価値
これまでの出版において、
紙や印刷工程、製本方法などへのこだわりが
読者側に価値として注目されることは、一部の豪華本を除き、ほぼなかったと言えます。
それは、大量生産・大量消費時代には当然なことです。
「本」という存在は、あくまで、コンテンツを運ぶ器に過ぎないので、
安価で持ち運びしやすいことが、なにより重要でした。
もちろん、本の物質面に強いこだわりを求める人も一部にはいましたが、
大量生産・大量消費時代には、あまりすくいとられることのないニーズでした。
作り手が、本の中身に徹底的にこだわることこそあれ、
物質面に、こだわり抜くことは、ニーズにもコストにも合わなかったのです。
しかし、時代は変わりました。
以前の記事
「明治大学で講義してきました:「100万人から1円」でなく「1万円出してくれる人を100人」へ」
でも書きましたが、
「デジタルやウェブによってもたらされたメディアの変化」は、
大量生産・大量消費をベースとした従来のメディア視点だけで捉えていると、大事なことを見過ごしてしまいます。
製作コスト、流通コスト、プロモーションコストなどの大幅な低下をもたらし、
少部数生産・販売も可能にしてくれているのです。
結果、本の中身(コンテンツ)だけでなく、
物質そのものへの高いこだわりを発揮することも、十分成立しうる土壌ができているのです。
本の手触り、匂い、製本方法といった、読者が直接感じ取れる要素はもちろん、
鋳造活字の活用といった製造工程のこだわりにも価値が見いだされるかもしれません。
●背景にある「物語・価値観」
本の物質性の価値が高まることと並行して、
各工程において、制作過程のストーリーや、携わる人たちの価値観への関心が高まると予想されます。
コンテンツ制作の舞台裏(作者の意図や編集部の様子など)を発信する、という試みは、これまでもありました。
さらに今後は、本という物質の作られる背景が意味を持ち、
そのストーリーや価値観が、体現されていることが、一つの強みになってくると思います。
環境に対する姿勢や世界・地域への貢献なども、意味を持つようになるでしょう。
たとえば、バナナペーパー(※)の使用など、
紙の選択も、本の魅力を構成する一要素になってくるかもしれません。
※バナナペーパー・・・「バナナ繊維」を使用した紙。
世界の森林や野生動物の減少など環境問題と、途上国の貧困問題や女性の自立支援といった社会課題の両方を解決したいという想いから生まれた。(参考:One Planet Cafe)
その結果、
製紙所、印刷所、製本所など、これまでは完全に裏方だった人たちの存在が表に出てくるのではないでしょうか。
その人たちが、どんな価値観を持って、本という物体作りに携わっているのか、
ストーリーや、価値観の表出がカギになってくるはずです。
本はそもそも、「物語」や「価値観」を求めて購入されるものなので、
器自体にストーリーや価値観が付加されていることは、
受け入れやすいと考えています。
●「場所・時間」の重要性
本という物体を製作している人々の価値観やストーリーへ関心が高まってくると、
その「場所」にも価値が生まれてきます。
「ブルーボトルコーヒー」が焙煎所を併設しているように、
製紙所や印刷所の中に、編集部や作家の仕事場併設され、小売機能も持つ、というかたちが現れてくるのではないでしょうか。
SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(SPBS) のように、書店と編集部が併設されているケースは既にありますが、
製造から小売まで一箇所で行われるのが、「サードウェーブ・パブリッシング」の一つの特徴になると思います。
今後、印刷所や製本所が次々と廃業していくことは、残念ながら避けられないことだと思います。
そこを、作家や編集プロダクションが受け継ぎ、
「事務所」兼「製作所」兼「小売り場」
とする動きが出てくるかもしれません。
紙の仕入れ先も、その地域の製紙工場で、
といった形で、
「材料生産、仕入れから、製造、小売まで一つのエリアで」というケースも出てくるでしょう。
すると、
「そこだから手に入る」ことの希少性に、さらなる価値が出てきます。
それに従い、
「場所」に加え、「時間」の価値も生まれてきます。
限られた場所で限られた期間のみ入手できる、という価値です。
「いつでもどこでも手に入る」の真逆となる
「ここでしか、手に入らない、読めない」ことの価値が生まれてくるのです。
■「本」という物体と、それを取り巻く人々と場所を含めて
これが私の考える「サードウェーブ・パブリッシング」という潮流です。
いかがでしょうか?
「紙質とか、印刷方法とかどーでもいい。
面白い作品が、なるべく安く、好きな時に手に入るのがいいに決まってるって」
と思っている人も少なからずいることでしょう。
それはとっても真っ当な感覚です。
だからこそ、冒頭に書いたように、
「サードウェーブ・パブリッシング」が主流になり、出版業界の再浮上のチャンスになる、なんてことは全く思っていないのです。
一方で、下記のようなイメージを思い浮かべると、
「是非行ってみたい!」と思う人も一定数いるのではないでしょうか?
ある一定数の根強いファンを持つ作家が、
古くからある印刷所に仕事場を併設させ、
描き上げたばかりの作品を、
その場で印刷・製本している。
そして、できたての本を軒先で売ってくれる。
そんな場所があったら、私は絶対に行ってみたいです。
もっとバリエーション豊富に、「サードウェーブ・パブリッシング」の具体的なイメージをたくさん紹介できたら、伝わりやすいのだろうなあと思うのですが、
それは、僕がこの先、自らやってみたいと思っていることと重なっているので、書きません(^^)
5年後10年後に、「あの時に考えていたことは、こういうことだったんですよ」と、具体的な活動の紹介と合わせて話せたらな、と思っています。
本という器のうえに載せられたコンテンツだけを取り上げて
「出版のこれから」を考える時期は、もう終わりに近づいているのかもしれません。
しかし、
「本」という物体と、それを取り巻く人々と場所を含めて、
価値観や物語を提示していくこと
には、まだまだ大きな可能性があるはずです。
東京の神保町という、
世界的にも類をみないほどに発展している「出版の街」に日々いることに感謝しながら、新しい出版の在り方を思索していきたいなと思っています。

【この記事を読んだ方にオススメの本】
「場所」が一つのテーマなので、最近お気に入りのこの曲を貼り付けておきます。
個人的には、最近、考えるたびにワクワクするテーマがあります。
それは、コーヒーに定着した「サードウェーブ(第三の波)」が、
出版の世界にも訪れるのではないか、
という考えです。
そう、
「サードウェーブ・パブリッシング」です。
本の物質としての価値が、これまでとは違ったかたちで受け止められ、その背景にあるストーリーや価値観が重要視されていく、
そして、生み出される場所や、受け取る場所や時間にも価値が生まれてくる、
そんな潮流です。
どこかの誰かが言っていることではなく、
私自身が、神保町の街を歩いていた時に、ふと思いついたことなのですが、
なにか確信めいたものを感じています。

■デジタル化がもたらす出版の大変化の「一傍流」として
かなりの確率で誤解を生みそうなので、先に書いておきます。
この「サードウェーブ・パブリッシング」は、
出版コンテンツのデジタル化の流れと相反する概念では全くありません。
本はやっぱり紙だよね!みたいなことを言いたいのでは全くありません。
この「第三の波」が、これからの出版の主流になり、出版業界が再浮上する、なんて思うほど、私も夢想家ではありません。
「情報伝達手段」「エンタメの消費媒体」としての「紙VSデジタル」論争みたいなものは、もう勝負がついています。
それは不可逆的な流れです。
サードウェーブ・コーヒーが、コーヒー全体の市場規模から言えば、ごく一部であり、
缶コーヒーやコンビニの100円コーヒーの市場のほうがはるかに大きい。
にもかかわらず、確固たる存在感を示している--
そんな状況と同じように、
「サードウェーブ・パブリッシング」は、
デジタル化がもたらす出版の大変化の中で、一傍流として、
けれども、強い光を放ちながら、出現していくのではないかと考えています。
■類推のための「サードウェーブ・コーヒー」解説
「サードウェーブ・パブリッシング」という概念を説明するために、まずは、
サードウェーブ・コーヒーの概要をざっとまとめてみます。
(参考:ジョージアのサイト「コーヒー業界の新潮流!3分でわかるサードウェーブコーヒー」)
●第一の波「ファーストウェーブ」
19世紀後半から、1960年代まで続く、コーヒーの大量生産・大量消費の時代です。
流通の発達により安価になったことでコーヒーがポピュラーな飲み物になりました。
●第2の波「セカンドウェーブ」
1960年代、シアトル系コーヒーチェーンなどの台頭により広がった、深煎り高品質の豆を使ったコーヒーの時代です。
スタバが代表格です。
●第3の波「サードウェーブ」
コーヒーの生産地への配慮や価値などが注目されるようになり、コーヒーがカップに運ばれるまでのトレーサビリティ、豆の素材や淹れ方など、各々の工程にこだわる「スペシャルティコーヒー」が存在感を強めています。
ハンドドリップで一杯ずつ丁寧に淹れるスタイルがトレンドになっています。
2015年に日本へ初上陸した「ブルーボトルコーヒー」が代表格で、焙煎所が併設されていることも特徴的です。
新しいビジネスとカルチャーがひとつになって確立しているという特色もあります。
こうしたコーヒーのムーブメントの流れを参考に、いよいよ、
「サードウェーブ・パブリッシング」の説明に行きたいと思います。
■出版の「第一の波」、「第二の波」
まずは、「サードウェーブ・パブリッシング」の基盤として「出版における第一、第二の波」を定義していきます。
●出版の第一の波「ファーストウェーブ」:
大量生産・大量消費の時代です。
全国津々浦々に書店ができて、雑誌が全盛となり、出版がマスメディアとして機能していました。
●出版の第二の波「セカンドウェーブ」:
現在は、この渦中になります。
2000年頃からのネット書店の台頭やデジタル化の流れで、出版業界が大きく揺るがされている状況です。
まず、アマゾンに代表される、ネット書店の台頭により、
本は「いつでも、どこでも手に入るもの」へと変わりました。
少部数の本を探し求めて書店を梯子する、といったことが不要になり、絶版本でも簡単に手に入る時代になりました。
また、電子書籍やオンデマンド・パブリッシングの発達により、「いつでも、どこでも手に入る」要素がより一層強化されました。
同時に、セルフパブリッシングが急激に増え、低コスト化、低価格化も進んでいます。
結果、ロークオリティ化という弊害も一部で起こっています。
第二の波に関しては、コーヒーのそれとは様相が異なりますが、
アメリカ発の企業が大きな存在感を示している点では、通ずるところがあります。
そして、いよいよ、第三の波、「サードウェーブ・パブリッシング」です。
■出版における第三の波「サードウェーブ・パブリッシング」
これから生まれてくるであろう
「サードウェーブ・パブリッシング」は、3つの要素を軸に説明していきます。
「物質」「物語・価値観」「場所・時間」の3つです。

●「物質」としての本の価値
これまでの出版において、
紙や印刷工程、製本方法などへのこだわりが
読者側に価値として注目されることは、一部の豪華本を除き、ほぼなかったと言えます。
それは、大量生産・大量消費時代には当然なことです。
「本」という存在は、あくまで、コンテンツを運ぶ器に過ぎないので、
安価で持ち運びしやすいことが、なにより重要でした。
もちろん、本の物質面に強いこだわりを求める人も一部にはいましたが、
大量生産・大量消費時代には、あまりすくいとられることのないニーズでした。
作り手が、本の中身に徹底的にこだわることこそあれ、
物質面に、こだわり抜くことは、ニーズにもコストにも合わなかったのです。
しかし、時代は変わりました。
以前の記事
「明治大学で講義してきました:「100万人から1円」でなく「1万円出してくれる人を100人」へ」
でも書きましたが、
「デジタルやウェブによってもたらされたメディアの変化」は、
大量生産・大量消費をベースとした従来のメディア視点だけで捉えていると、大事なことを見過ごしてしまいます。
製作コスト、流通コスト、プロモーションコストなどの大幅な低下をもたらし、
少部数生産・販売も可能にしてくれているのです。
結果、本の中身(コンテンツ)だけでなく、
物質そのものへの高いこだわりを発揮することも、十分成立しうる土壌ができているのです。
本の手触り、匂い、製本方法といった、読者が直接感じ取れる要素はもちろん、
鋳造活字の活用といった製造工程のこだわりにも価値が見いだされるかもしれません。
●背景にある「物語・価値観」
本の物質性の価値が高まることと並行して、
各工程において、制作過程のストーリーや、携わる人たちの価値観への関心が高まると予想されます。
コンテンツ制作の舞台裏(作者の意図や編集部の様子など)を発信する、という試みは、これまでもありました。
さらに今後は、本という物質の作られる背景が意味を持ち、
そのストーリーや価値観が、体現されていることが、一つの強みになってくると思います。
環境に対する姿勢や世界・地域への貢献なども、意味を持つようになるでしょう。
たとえば、バナナペーパー(※)の使用など、
紙の選択も、本の魅力を構成する一要素になってくるかもしれません。
※バナナペーパー・・・「バナナ繊維」を使用した紙。
世界の森林や野生動物の減少など環境問題と、途上国の貧困問題や女性の自立支援といった社会課題の両方を解決したいという想いから生まれた。(参考:One Planet Cafe)
その結果、
製紙所、印刷所、製本所など、これまでは完全に裏方だった人たちの存在が表に出てくるのではないでしょうか。
その人たちが、どんな価値観を持って、本という物体作りに携わっているのか、
ストーリーや、価値観の表出がカギになってくるはずです。
本はそもそも、「物語」や「価値観」を求めて購入されるものなので、
器自体にストーリーや価値観が付加されていることは、
受け入れやすいと考えています。
●「場所・時間」の重要性
本という物体を製作している人々の価値観やストーリーへ関心が高まってくると、
その「場所」にも価値が生まれてきます。
「ブルーボトルコーヒー」が焙煎所を併設しているように、
製紙所や印刷所の中に、編集部や作家の仕事場併設され、小売機能も持つ、というかたちが現れてくるのではないでしょうか。
SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(SPBS) のように、書店と編集部が併設されているケースは既にありますが、
製造から小売まで一箇所で行われるのが、「サードウェーブ・パブリッシング」の一つの特徴になると思います。
今後、印刷所や製本所が次々と廃業していくことは、残念ながら避けられないことだと思います。
そこを、作家や編集プロダクションが受け継ぎ、
「事務所」兼「製作所」兼「小売り場」
とする動きが出てくるかもしれません。
紙の仕入れ先も、その地域の製紙工場で、
といった形で、
「材料生産、仕入れから、製造、小売まで一つのエリアで」というケースも出てくるでしょう。
すると、
「そこだから手に入る」ことの希少性に、さらなる価値が出てきます。
それに従い、
「場所」に加え、「時間」の価値も生まれてきます。
限られた場所で限られた期間のみ入手できる、という価値です。
「いつでもどこでも手に入る」の真逆となる
「ここでしか、手に入らない、読めない」ことの価値が生まれてくるのです。
■「本」という物体と、それを取り巻く人々と場所を含めて
これが私の考える「サードウェーブ・パブリッシング」という潮流です。
いかがでしょうか?
「紙質とか、印刷方法とかどーでもいい。
面白い作品が、なるべく安く、好きな時に手に入るのがいいに決まってるって」
と思っている人も少なからずいることでしょう。
それはとっても真っ当な感覚です。
だからこそ、冒頭に書いたように、
「サードウェーブ・パブリッシング」が主流になり、出版業界の再浮上のチャンスになる、なんてことは全く思っていないのです。
一方で、下記のようなイメージを思い浮かべると、
「是非行ってみたい!」と思う人も一定数いるのではないでしょうか?
ある一定数の根強いファンを持つ作家が、
古くからある印刷所に仕事場を併設させ、
描き上げたばかりの作品を、
その場で印刷・製本している。
そして、できたての本を軒先で売ってくれる。
そんな場所があったら、私は絶対に行ってみたいです。
もっとバリエーション豊富に、「サードウェーブ・パブリッシング」の具体的なイメージをたくさん紹介できたら、伝わりやすいのだろうなあと思うのですが、
それは、僕がこの先、自らやってみたいと思っていることと重なっているので、書きません(^^)
5年後10年後に、「あの時に考えていたことは、こういうことだったんですよ」と、具体的な活動の紹介と合わせて話せたらな、と思っています。
本という器のうえに載せられたコンテンツだけを取り上げて
「出版のこれから」を考える時期は、もう終わりに近づいているのかもしれません。
しかし、
「本」という物体と、それを取り巻く人々と場所を含めて、
価値観や物語を提示していくこと
には、まだまだ大きな可能性があるはずです。
東京の神保町という、
世界的にも類をみないほどに発展している「出版の街」に日々いることに感謝しながら、新しい出版の在り方を思索していきたいなと思っています。

【この記事を読んだ方にオススメの本】
「場所」が一つのテーマなので、最近お気に入りのこの曲を貼り付けておきます。
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